第1章 卒業、そして旅立ち

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「うーん、未熟っていうのとは違うんだけどな。大丈夫、そんな悲壮な顔しなくても、お前にやるものはもう揃えてある」  リーンはほっそりとした全身を優美に反らせ、緩いウェーブを描く茶金の髪を肩にはね上げて、親指と人差し指で宙に“解呪”の紋を描いた。目くらましの魔術が解け、整頓され尽くしているように見えていた部屋の隅に、積み上がった箱の山が現れる。  ヒールを鳴らして箱を取りにいったリーンは、息をひとつ吸う間躊躇った。ちらりとキアノスを見やり、息を吐くと同時に艶やかに表情をくらます。 「キアノス・コルバット、卒業と旅立ちを祝しリーン・ブラウレイよりこれを贈る。……おめでと」  キアノスは両手を差し伸べ、平たく大きな箱を受け取った。  その腕がかすかに震えていたように見えたのは、リーンの勘違いだったろうか。  キアノスは表情を硬くしたまま、無言で蓋に手をかけ、一気に中身を露わにする。  そこに入っていたのは、一着のローブ(長衣)だった。  レインバスト魔術学院に卒業証書は無い。その代わりが、卒業生の“力の色”を象徴するローブである。  この世をより生きやすい世にする力の象徴、白。  技を極め生み出される底知れぬ力の象徴、黒。  知識を撚り合わせて道を明るく照らす力の象徴、赤。  卒業に際して指導者から与えられるいずれかの色の、若しくは組み合わせの色のローブが、世に出た卒業生たちの身の証となってくれる。  キアノスは、柔らかく真新しいローブをそっと手に取った。  室内のランプに仄かに照らされたそれは……  夜空のようなダークブルー。  キアノスは、微笑みを浮かべて再び深々と頭を下げた。
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