第1章 卒業、そして旅立ち

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「不満じゃないの? お前のローブは……規格外なんだよ?」  細く長い指で青いローブを愛おしそうに撫でるキアノスに、リーンは今度は意外な気持ちを隠さなかった。 「とんでもない、不満なんて! 僕にはもったいない神秘的な色です。これを纏い、この色に相応しい魔術師になれるよう、先生の教えを胸に精進してまいります」  型に則った礼の言葉。しかしリーンは、これほど穏やかな笑顔を見せる生徒を他に知らなかった。  卒業時に与えられたローブは、魔術師を名乗る以上は常に身につけなければならない。規格外色のローブ、つまり《はぐれ魔術師》の烙印は恥と考えられ、せっかく卒業しておきながら魔術師として生きることを諦めてしまう者も多いのだ。  それを、この若者は笑みとともに受け容れた。  リーンの今までの生徒の中で、何人いただろうか? 「さ。お前にはまだ渡さなきゃなんない物があるんだけど、その前に。お前から聞いておきたいことはあるかい? ま、教え残したことはないと思うが」  リーンは、柔らかいクッションに埋もれるようにソファに腰掛け、赤いワンピース型のローブの裾を蹴り上げるように足を組むと、袖をざっくりと捲って腕も組んだ。 「先生……ひとつだけ伺いたかったことが」  躊躇いがちなキアノスの声に、リーンの目がすっと細められた……その時。 「失礼しまぁす! ハイ・クラス2組ディナ=ラージェスタ・セラルーテ、卒業試験の結果をぉ、あ!」 「…………あ」  明らかに場違いな軽い足音と甲高い声が、キアノスの口から出かけていた言葉を奪い去った。
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