第1章 卒業、そして旅立ち

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 天井から吊られたランプが無風の室内で大きく揺らぎ、間もなく正午だと告げる。  リーンはひと呼吸で笑みを消すと、ディナの両肩に手を置いて声低く語りかけた。 「ディナ、お前は勢いで卒業したようなものだ。昨日の試験も壊滅だったしね。だが、お前自身の“力”の圧倒的な強さは疑うべくも無いんだよ。レドゥ先生も言っていた、『あの子はもう少し我が身を知るべきだ』って。私は少しどころではないと思っているのだが」  ディナが無言のままキュッと目を吊り上げた横顔を、キアノスはじっと見ていた。 「生まれ故郷を探す旅にでも出たらどうだ? ま、無理にとは言わないがね」 「……考えてみる」  沈黙の後にポツリと呟いたディナの声は、ローブの衣擦れの音にも負けるくらい細かった。 「……とか言っても、ゼーンゼン見当もつかないからどうしようもないんだけどねっ!」  いきなり声を張り上げて、胸にローブを抱えたままくるりと一回転するディナ。それが、さりげなくリーンの手を肩から外すためだったことに、リーンは気づかぬふりをした。
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