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ねじ伏せられたように視線が低くなって、廊下の床に片膝をついてしまったのを自覚する。
やっとのことで首を回して爆心を見やった瞬間、細い視界の端から何かの大きな破片が吹き飛んでくるのが見えた。
(しまった!!)
硬直するキアノスの前に、何の前触れもなく暗幕のようなものがふわりと割り込んだ。キアノスの全視界が黒く塞がれ、飛来物の行方がわからなくなる。
「ラ、ラクタス先生……」
墨黒のクロークを翻した長身の上級教官ラクタスは、無言のままくるりとキアノスに背を向けた。膝をついたまま見上げるキアノスの視線を、切れ長の両眼がちらりと横切る。
ラクタスはカチリと両の踵を揃えて姿勢を正し、指を開いた両手を前方に突き出した。
半瞬の差。
蝶番から自由になって弾け飛んできた扉の上半分が、ラクタスの両掌寸前、見えない障壁に激突して落下した。
割れたランプの笠、砕けた椅子の足、窓ガラスの破片が次々と叩き落とされる。クロークの裾と腰下まである長い髪が衝撃で激しく靡き、中腰のキアノスの頬を痛いほど叩く。
「馬鹿野郎。卒業を前に頭を吹っ飛ばされたかったか」
冷ややかな低声(バス)をキアノスの耳が受け止めた頃には、ラクタスは足早に扉の消し飛んだ部屋の前に戻っていた。
唸るような轟音が一気に収束していく。
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