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白煙がもうもうと噴き出している部屋は、扉が無いというのに中の様子が窺えない。
妙に静まり返った廊下を、煙塵だけが流れていく。
「収まった……のか?」
キアノスはそっと廊下の中央へ歩み出た。靄る廊下の奥で、リーンが何かを怒鳴っているのが聞こえる。塵の入った目をこすり何度か瞬きすると、どうやら暴れ回る小さい生き物を捕まえでもしているような騒ぎが見えた。
「一体何がいるっていうんだ? さっきの声は……」
「どーいーてーーッ! どきなさぁぁぁいッ!!」
キアノスの耳にフェイド・インしてくる大声。キアノスが目を凝らしていた、まさしくその煙の渦中から、ガラスの破片や塵を蹴立ててすさまじい形相で爆走してくる――
真紅の少女。
後頭部で一括りにまとめた赤い髪、両の上腕にひらめく赤いリボン、深いスリットの入った深紅のスカートが、滅茶苦茶な疾走で飛び跳ねる。
行く手を塞ぐかたちでつっ立っているキアノスを睨むのは、怒りと焦りで真っ赤に燃え盛る、人間離れした強い瞳。
キアノスは咄嗟に半歩後ずさった。
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