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「…山崎、何か分かったか?」
漆黒の長髪を一つに束ね、役者のように整った顔立ちをした男が部屋の隅にある文机の前に座した侭、何もない空間に向かって声をかける。
「いえ、まだ手掛かりは掴めていません。副長の仰る通り、下手人はかなりの手練れのようです」
"副長"と呼ばれたその男は天井や壁から聞こえてくる"山崎"という男の言葉を聞き、軽く舌打ちをする。
この男こそ昨今、京の人々が"壬生狼"と蔑み嫌っている"新選組"の副長・土方歳三だ。
「やはり隊内に下手人がいるとすれば……自ずと人物は絞られてくるかと」
山崎が少し言いずらそうにだが、核心をついた言葉を発する。
この男は新選組・諸士取調役兼監察方の一人、山崎烝。
新選組の監察方は間者をしたり、変装、侵入、検分…あらゆる作業を手際よく、且つ闇に紛れて内密に行う。
いわば密偵のような仕事もこなしている。
「……斎藤か総司。」
土方は再び舌打ちをし、新選組幹部の中でも一際剣の才に恵まれている二人の人物の名を呟く。
「…隊内でも妙な噂が立ち始めています。早目に手を打つのが得策かと」
「ったく…、くそ忙しい時に限ってやっかいな事が起こりやがる、頭の痛え話だ。
…山崎、尾形と島田にも声かけて検分して来い。俺がわざわざ行くまでもねえだろ」
土方は眉間に皺を寄せながら、今まで認めていた文を畳んで懐にしまう。
土方は山崎に絶大な信頼をおいているらしい。
「御意。検分結果が分かり次第、副長にお知らせ致します」
土方の言葉を聞くと、山崎は何処からともなく姿を表し、頭を下げてからすっと消えていく。
山崎が出て行く気配を確認すると、土方は大きな溜め息を吐いた。
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