想いは空へ

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  コンコン  少女は軽く木でできたドアをノックする。するとすぐに中から返事がある。 「開いているよ、入っておいでお客さん」  少女はドアをそっと開けると中に入った。魔法使いの庵に入った。中はかなり広いが、所狭しと並べられた薬品と薬品棚。それに少女には使い方など判らぬような器具がごちゃごちゃと並んでいて、部屋の中心には大きな鍋が一つ置いてあり、鍋の中ではなにやら不思議な色をした液体がぐつぐつと煮え立っていた。庵の中には不思議な紫煙が立ち込めているが、へんな香りがするかと思えば、良い香りがする。 「シャナかい? 今日も遊びに来たのかい?」  灰色の翼を持つ庵の主は少女に背中をむけて大鍋を掻き回しながら質問する。 「こんにちは、ミリオンさん。今日はお願いがあってきたの」  戸口に立ったまま、少女は両の手をぎゅっと握り締め、魔法使いの灰色の翼を見つめた。 「願い? いつも遊びに来るだけの君が願い事とは珍しいね、言ってごらん、僕に出来る事なら手伝ってあげるから」  やっぱり魔法使いは少女の方を振り向かずに返事を返す。少女はいつもの事なので慣れているが、普通の人ならばこの礼儀の無い魔法使いの態度に腹を立てる事が多い。 「あのね、翼が欲しいの。大空を羽ばたける翼が、みんなと同じ翼が私の背中にも欲しいの」  少女は握り締めた手をさらに強く握り締め、魔法使いの灰色の翼を見つめ続けた。しかし、魔法使いはなにも答えることもなく、ただ大鍋をかき回している。少女はただ、ただ魔法使いを見つめている。そうしているうちに魔法使いの方が口を開いた。 「翼か…できないことはないよ。ただ、少しの材料と君の覚悟が必要だ。しかしなぜ、今更になって翼をほしがるんだい?」  やはり振り向くことなく魔法使いは少女に問いかける。 「今更じゃないよ……ずっとずっと前から思ってたの、ただ言い出せなかった。でも、もう限界なの! 翼が無いからって馬鹿にされたり、哀れみをかけられるのは嫌なの! いつもいつも…」
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