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そう言って少女は泣き出して床にうずくまってしまう。決意のために握り締めた両の手はこぼれる雫をせき止めるために顔を抑える。
「そうか、ごめん。つらいことを言わせてしまったね」
魔法使いはやっと大鍋を掻き混ぜるのを止め、うずくまった少女の肩にそっと手を置いた。魔法使いは少女がこれまでに受けたことを知っている。それでも今まで少女が想いを口にすることは無かった。なぜと問うた自分を後悔した。
「でも、さっき言ったように、材料とそれを集める君の覚悟が必要なんだけど、それでもいいのかい?」
魔法使いが少女の顔に両手でそっと触れ、囁きかける。少女は魔法使いの真っ赤な深紅の瞳を見つめ、こっくりと頷いた。魔法使いも少女の美しく澄んだ黒い瞳に込められた意思を受け止めた。
「綺麗な瞳だ…その瞳を僕にくれるのなら今すぐに願いを叶えてあげるんだけどね…そういうわけにもいかないし……じゃあ、材料の鳥のはね一万枚、君自身が集めてきて欲しい。ただし、一匹の鳥からは一枚しか羽を貰ってはいけない。翼の無い君に空を飛ぶ鳥達に声が届くかどうかはわからない。でも、シャナが頑張って羽を集めてくれば、そうすれば僕は君に翼をあげるよ。君のそのどこまでも深く澄んだ黒曜石のような君の瞳にふさわしい、美しい翼を君に贈るよ」
少女の顔は光を見つけたように、ぱっと明るくなった。
「判った!私、頑張るよ!」
少女は魔法使いの手を握り締めた。魔法使いは嬉しそうな少女の笑顔をみて満足げに立ち上がり、戸棚へと向かった。
「取り敢えず、この袋詰めてきてね」
魔法使いはゴソゴソとなにか良く判らない機材が置いてあるところから妙に小奇麗な袋を取り出して少女に手渡した。
「うん、私、頑張るからね」
再び明るくそういった少女は袋を受け取って、元気に魔法使いの庵を飛び出して行った。
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