想いは空へ

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 それから一ヶ月、少女は一生懸命鳥を探しては羽を一枚くれるようにお願いして回った。しかし、歩いて鳥を探すのにはやはり時間がかかる。鳥の群れを見つけて叫んでも中々声が届かない。ただ、鳥達はみんな好意的で、声が届けば遊ぶことを引き換えに羽をくれるのであった。声が枯れる日もあった。雨がふって移動できない日もあった。思ったようには進まなかった。一ヶ月かけてもあまりたくさんの羽は集まらない、一ヶ月で集まった羽の数は八百三十二枚。十分の一も集まっていない、けれども少女は満足だった。翼が貰える可能性が開かれたのだ、ゆっくりでもいずれはたどり着ける場所、ゆっくり行けばいいのだと言い聞かせるようにゆっくりと羽を集めて行こうと思った。  それに、いろんな鳥達と仲良くなれるのがとても嬉しかった。鳥達は哀れみも、いじめもしない、回りの人々とは違って変わらず接してくれる。その当たり前の接しかたが少女にとってはとても新鮮であった。  そうして、さらに一ヶ月、二ヶ月と時間がすぎていき、一年が立とうとしていた。集めた羽の数も九千九百六十八枚。約束の一万枚まであとたったの三十二枚である。  一年の間に少女はいろんな所へ出かけた、霞がかかるような高い山に登って鷹としばらく暮らしてみたり、蒼穹の空の色を写し取ったかのような美しい川のほとりでカワセミ達と戯れたり、微かな霧がたちこめ、命の息吹あふるる湿地帯で鶴達とタンゴを楽しみ、緑の草原で風とともにスズメ達とワルツを楽しんだ。  この一年間、少女はいじめにも会う事も無かったし、哀れみをかけられる事も無かった。いつしか少女はこの自然の中で生活していけばいいんじゃなかと、そう思い始めていた。だけど、出会った鳥達が空へ羽ばたいて行くのを見るたびに、空への憧れを募らせて行く。鳥達が飛び立ったあとに取り残された少女はいつもさみしさに立ち尽くしては空を見上げていた。その空は少女の内心を現すようなどんよりとした灰色の雲が青空を覆っていた。  残り三十二枚、渡り鳥の群れにでも出会えればあっという間に満たしてしまう枚数。楽しかった少女の旅も終わりが見えてきた。 「あとほんの少し…」  少女はまた次の鳥達を探してとぼとぼと歩き出した。
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