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その後、少女は残った羽を集めて慰めるように振り出した雨の中、魔法使いの庵にトボトボとあるきだした。
トントン
「開いてるよ、入っておいでお客さん」
魔法使いは相変わらず鍋をかき回していた。ノックの音はした、戸が開いて閉まる音がした。人の気配はする。しかし声をかけてくることも無く、動く気配もない。魔法使いは不思議に思って扉の方をみた。そして、魔法使いは抜け殻のようになった少女を見つけた。雨に打たれて濡れ、俯いていた。長い黒髪は鴉の濡れ羽色に輝き庵の明かりを受けて艶かしく光っていた。
(…美しい)
魔法使いは少女を自分のものにしたいと思ったが、魔法使いは決して少女が自分のものにならない事を知っている。だから、すぐに考えを改めた。少女は魔法使いのものではない、そして、誰にも囚われる事の無い存在であると。
「おかえり、シャナ。久しぶりだね。何があったのか知らないが、まず火の側においで。体を乾かそう。そのままでは風邪をひいてしまう」
そういって、魔法使いは少女の手を引いて、中に迎え入れようとしたが魔法使いの予想に反して、少女は魔法使いに抱きついた。
「えぐっ…ぐすっ…うぇぇぇぇぇぇ」
少女は魔法使いの胸の中に顔をうずめて泣き出した。魔法使いはおどおどしながらも少女が落ち着くのを待った。その間にそっとタオルを少女にかけて髪を拭いてやる。微かに香る少女の髪の香りにいろいろな誘惑にまけそうになるが、魔法使いはぐっと我慢した。
少女が落ち着いた所でゆっくりと事情を聞くことにした魔法使いは、この一年と少しの間に少女になにがあったのか、そして今そこで何が起こったのかを聞き、少女が泣いた理由を理解した。
「結局、これだけしか残ってないの…」
そういって、少女は最後にかき集めた羽を魔法使いに差し出した。その数はもはや数えるほどしかなく、一万枚などという枚数には到底届きそうにもない。少女の両手でふわりと広がる羽は純白で淡く輝いているように見えた。
「これだけじゃ…これだけじゃ…だめだよね…」
すがるような瞳で見つめられた魔法使いはゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫だ、シャナはちゃんと一万枚の羽を集めているよ。とても美しい羽達をね」
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