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「キスをするのですよ」
そう言って、
妖しくピエロは笑った。
わたしは呆然として、その場に立ち尽くす。
雨が降っているせいか、とても寒く、
体中の震えが止まらない。
自分の左手に握られた写真を、見る気はなかった。
見たいとも思わなかった。
ピエロはまた繰り返す。
「5人にキスをするのですよ」
何か反論したいけれど、言葉は出てこなかった。
言い返すことの出来ない自分が悔しくて、俯く。
そんなわたしを見て、ピエロは楽しそうにクス、と笑った。
そしてわたしのそばに寄り、耳元に唇を寄せる。
「分かっているでしょう?」
「や……」
その吐息にゾッとする。
「キスしないと、あなたの大切なものが無くなるんですから」
わたしの左手に力がこもる。
写真の中の彼は、変わらず微笑んでいた。
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