陸の思い出(仮)

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高宮の長男として生まれた父と、銀行家の一人娘だった母ーーー二人は、会うことも話すこともないまま、結婚式の時に初めてお互いの顔を見たらしい。 所謂「政略結婚」だった二人の結婚は、父にとっては、 『いざとなれば離婚すればいい』 程度の軽い気持ちしかなく、渡された相手の写真に目を通すこともしなかったそうだ。 一方、母にとっても、厳格な自分の父親ーーー俺にとっては祖父に当たる人ーーーに監視された、まるで籠の鳥のような毎日から抜け出すための、考えられうる唯一の手段ーーーがこの結婚だっただけで、相手が誰だろうと興味がなかったらしい。 だがーーー結婚式の正にその場所で、初めて出会った自分の伴侶となるべき相手に、互いに恋をした。 『貴方のお父様に初めてお会いした時、運命の人って本当にいるんだなって、思ったの』 小さい頃から母は、まるで少女のような笑顔を浮かべながら、父と初めて出会った時の話を嬉しそうに俺にすることがあった。 それを聞いていて俺も、もし自分が結婚するときも、本当に心から愛しあえる人としたいーーーそう思うようになったんだ。 .

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