27人が本棚に入れています
本棚に追加
あの時も……言われたな。
━━━━━━━━━━━━━━━
満月の光だけが、燦然と輝く夜。雲一つない夜空。
とある小国での戦争だ。
「無駄な抵抗は止めろ」
自分の目の前には、全身が血だらけになり。最早誰の血であるかは判別不能になっている男が一人。行き止まりで肩を震わせながら怯えていた。
「くっ……そがぁ!」
逃げるのは不可能と察した《敵》が立ち上がり、こちらに向かおうとしていた。
だがその行動すら許さず、冷たく拳銃の引き金を引く。乾いた銃声に、膝を貫かれた男の悲痛な叫びが混じる。
「ぐぁぁあ……あぐ……あっ」
「だから、《止めろ》と言った。無駄に命を散らす必要は無い」
しばらく悶絶していたが、その男は憤りをその眼に燃やしながら睨みつけてきた。
「なに……すました顔でェ!この《悪魔》がッ!」
「━━何?」
「《何?》だとぉ!?とぼけるな!仲間を返せ!!」
男が言い放った言葉は、決して長くはない。長くはないが、鋭く、尖っていた。そしてそれは本来。人が《心》と呼ぶ箇所に突き刺さる。
拳銃を握っていた手を、不意に下げてしまい。相手を牽制するものを、自らの手で無くしてしまう。
それを見逃すほど、敵は。現実は甘くはなかった。
金属音が鳴ったかと思うと、既に男は腰から小型の銃を抜き取っていた。その両手はしっかりと《的》を定めている。
「くたばれ《異形種》!!」
あまりに唐突過ぎて、目を見開いたまま。死を待つ。
一際心臓が高鳴る。
だが、自分は死ななかった。
男が弾を打ち出す前に、彼は絶命していた。額からはドクドクと血を流し、その眼から光はもう見えない。
「……無事か?」
背後には、いつの間にかマーキュリーがおり。その右手からは、ハンドガンが硝煙の臭いを漂わせていた。
銃を収め、ゆっくりと近付いてくるマーキュリーの目を直視出来ず。こちらから視線をずらす。
「……すいません」
「馬鹿野郎!戦場で気を抜く奴がいるか!!貴様、それでもS.Fか!?」
胸ぐらを掴まれ、その場で突き上げられる。
「……すいません」
「……まぁよい。この付近は大方片づいた。今日の作戦はこれまでだ」
そのまま乱暴に路地に叩き付けられる。
怒られたことよりも。
敵とはいえ、同じ人間に《異業種》と呼ばれた事実が、虚しく心に残ったのを、今でも鮮明に覚えている。
━━━━━━━━━━━━━━━
最初のコメントを投稿しよう!