勝利の価値

9/9
前へ
/80ページ
次へ
「……ぃ……オイッ!」 「ハッ━━」 「大丈夫。じゃねーよな、顔色悪いぜ」 物思いに耽っていたら、そのまま寝てしまったらしい。気がついた時には、マッコイに肩を揺さぶられていた。 「すまない」 汗を拭いながら、微かに言葉を紡ぐ。 「気にすんなよ。長いつきあいだしな」 そう笑いながら、頼もしく、彼は自分自身の胸を叩いた。 (《長いつきあい》……か……) アレスとマッコイは、優秀な《兵士》と成るために、八歳の時には既にS.Fに所属していた。 マッコイは辛うじて覚えているものの、アレスにはS.Fに入るまでの記憶が一切無い。自我を持ち始めた頃には、既にS.Fに所属していた。 幼い頃より、異常なまでの訓練を重ねた。 人を殺すためだけに。 その事実は、アレス本人にとって。自分が本当に《人》なのかを疑うまでに、さほど時間はかからなかった。 「……時間だ」 S.F全員に支給される、耐久性の極めて高い。白銀のアンダースーツの上から、幾何学的な紋章の描かれた紅の服を身にまとう。 「おうよ!」 先程までの暗い雰囲気を吹き飛ばすくらい、元気のいい返事をするマッコイ。 マッコイはアンダースーツの上からTシャツを羽織っていた。彼にとっても愛着のあるデザインらしく、任務の度に毎回チョイスしている。 何時までもここに居るわけにもいかず。徐に、歩き始めた。 ……心なしか、足取りは重く。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加