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闇夜に紛れた紅の兵士。
その黒いブーツの足音だけが、荒廃しきった大地に吸い込まれていった。
『しかしなぁ………………こんなに敵さんが居ねぇのも変じゃあねぇか?』
「あぁ、静かすぎる」
エルドバインから《飛翔機》で和へ直行したが……………………。
もう既に敵の懐だというのに、巡回兵も見当たらず、見張りすらいない。
殺風景な周囲からは、人の気配すら感じられなかったのだ。
「そっちはどうだ?」
『《ゼロ》。わざわざ訊かなくても分かってんだろうが』
左耳に装着した通信機から、ぶっきらぼうなマッコイな声が届く。マッコイは狙撃手のため、自分とは少しばかり離れた位置にいる。
それから一旦会話が途切れ、無言のまま探索を再開する。剥き出しの大地を歩みながら、周囲を警戒し続けた。
「…………そこか。出てこい」
暫くの間歩くと、物陰に微かな気配が読み取れた。
右腰に収められていた拳銃を、《敵》が居るであろう場所へと向けた。
「ふぅ……中々早いね」
潔くとも。諦めとも取れるような物腰で、ソイツは現れた。
全身は迷彩服に囲まれ、顔もフードで覆われており、その瞳は見ることもできない。
少なくとも、この場所に存在する者は《敵》なのだ。自然と敵意を剥き出しにして、睨み付ける。手にも力が入っていく。
「お前を……殺す」
「オイオイ、そんな目で視るなよ。恐いだろ?」
マッコイくらいに掴みどころのない奴だ。
直感的にそう悟る。
そして、下手に動くのは危険だ。
「ま、大方俺が目的なんだろうがね」
(なに?)
怪訝そうな表情を浮かべたが、そんなアレスに疑問を彼は投げかけた。
「そんなにおかしいもんかね?《総隊長》が前線に出て来るのが」
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