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「今日も終電か」
肌がほどよく小麦色に焼けた少女は、誰に言う訳でもなく呟いた。
彼女は、部活で居残りの練習をした帰りだった。その腕には、動物の絵がロゴのスポーツバックが抱えられていた。
電車は動く。
彼女は、電車という無機物がとんと苦手であった。彼女には、電車が鉄の蛇の様に見えていた。そして、その中にいる事は、蛇の胃の中にいるようであって気持ちの良い物ではなかった。
電車は曲がる。
カーブに差し掛かると、電車の連結部分がズレ、蛇特有の動きを思い出させた。
電車は停まる。
田舎である事も合間って、終電を乗り降りする人は疎らであった。
「もし本物の蛇だったら空腹だ」
彼女は、その様子を眺めながら、そのような事を思っていた。
出発の合図が響いた。 電車は鳴いた。
彼女は、その音が空腹でお腹が鳴いてるのかな、空腹で怒ってるのかな、と想像を膨らませていた。
想像が面白かったのか、彼女は少しクスクスと笑った。
電車はまた動く。
空腹で思い出したのか、彼女は晩御飯の事を想っていた。そして、バックの中からパンを取り出した。
彼女は、家に帰るまで我慢するかしばらく思考したが、家に帰るまでの時間に思考が至ったためパンを口にした。
電車は進む。
彼女は、部活の疲労感と満腹感で眠りに落ちた。
蛇は笑った。
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