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 雲一つ無いうららかな日曜日の午後。彼女と僕は行きつけの喫茶店、『ノート』に立ち寄った。  ガラス張りのドアを開けるとカランカランと客を知らせる音とともに、クラシックの音楽とコーヒーの匂い、そして若い女性マスターが出迎えてくれた。茶を基調とした趣のある店内には白髪の老人がカウンターに一人。それ以外に誰もお客は見当たらなかった。  もはや指定席となった窓際の丸テーブルに腰を落ち着け、僕と彼女はまた他愛も無い話に花を咲かせた。  僕の話。彼女の話。家族の話。旅行の話。結婚の話。僕達は窓から見える秋晴れの空のように、明るい行く末のことを語り合っていた。  何故あんな言葉を吐き出したのだろう? 脈絡が無かったわけじゃない。ただ僕は幸せ過ぎる今の現実に、得体の知れない一抹の不安を覚えていたのは確かだった。 「世界が分からないんだ」  僕には勿体無いくらい魅力的で性格の良い婚約者。不況など嘘のように一流企業に就職出来た自分。事の運びがあまりにも出来過ぎていて、僕はこの瞬間が壊れるのが恐かったのかも知れない。  僕の疑問に彼女ははにかんだ様な笑顔を見せた。ガラス容器に入った砂糖を銀色のスプーンで掬いだし、マスターご自慢のブレンドコーヒーの上からゆっくりスプーンを傾ける。  サラサラと流れる白い粉。磨き上げられた銀色の食器が僕のいる世界を歪めて映し出した。 「世界が分からない、か。君にしてはなかなか面白いことを言うね」  そう言いながら彼女は黒い液体をスプーンでかき回した。  暖かい日差しが彼女のセミロングの髪を黒く浮き立たす。先程、彼女と一緒に歩いた公園から子供の快活な声が聞こえた。窓に目を向けると生け垣の間から陽光を浴びて水しぶきを上げる噴水が目に入った。
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