│:瓢逸の紫

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  ────…… 「ふーん、動いたみたいだね」  中性的な青年は、白いベッドに横たわりながらテーブルのテレビ画面の様子を窺う。  懐古趣味なのか、あからさまにレトロな白黒テレビ。  彼自身、好意的に使用しているのではない。“それしか赦されない”のだ。  映像は“水溜まり”の中で 膝をつく青年と、それを見下ろす“少女”が対峙した姿が映じられている。 「まっ、彼女が出なくちゃ始まらないし」  青年は無邪気な笑みを浮かべて、テレビの電源を切る。  崩れた体勢を立て直し、適当に足と手を組んで再びベッドに横たえて空を仰ぐ。  天井はない。どこまでも深く吸い込まれそうな果てしない暗闇が続いている。天井が存在しないものの、そこは立派な“部屋”だった。  四角には一つずつベッドが並んでいるものの、使用されているのは青年の物だけだ。 「さ、あれは彼等に任せて、僕はもう一眠りっ、と」  間もなくして青年は浅い眠りについた。  そこに生命の存在はない。 ただ二つ、白と黒、二対の存在のみ赦される空間。  そんな世界に、彼はいた。  
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