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その国の王様は、それはもうたいそうツンデレが好きだという。
その情熱は自分の直属の部下たちを全員ツンデレで固めるほどであるから、常人の遙か遠くにいるのは言うまでもないだろう。
そんな王様がある日突然言い出したのが、先の言葉である。
「あ、あんたの提案なんて却下なんだからねっ。いいアイディアだなんて、全然思ってないんだからねっ」
王様専属のメイドはテンプレなセリフと共にそっぽを向いた。
そんな彼女の少し赤らんだ頬をニヤニヤと眺めながら、王様は近くにある紙を手にとってサラサラと必要事項を書き込んだ。
「新しい法律だ。国民総勢一億人は、老若男女みんなツンデレにならなければならない」
この国には議会というものが存在しない。だから王様の一存で司法立法行政が行われている。それはすなわち、王様の横暴を止めるものが誰一人いないということだ。
そしてこの法も、当然のように施行されるようになった。
「べ、べつにこのレストランの料理なんか美味しくないんだからねっ」
「あ、あんたに売る食べ物なんてないんだからねっ。それなら豚にやった方がましよ!」
そんな言葉が国のあちこちから聞こえてくる。
普段の会話ですらツンデレになったお陰でいざこざが絶えず、暴動や犯罪が激増。経済が回らなくなった。
国は今にも滅亡しそうだ。
事の発端である王様はツンデレな部下たちから国の内情の報告を受け、げっそりとした様子で呟いた。
「世界はツンデレだなぁ……」
その後、世界が彼にデレることは最期までなかった。
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