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「いまはいないけど」
『いま』を強調する。
「雪ちゃんはいるの?」
わかりきった質問だ。
「いないね。俺ら二人、寂しい姉弟なわけだ」
「あんたは、彼女が作れないわけじゃないでしょ」
「なに。なにか情報でも握ってるの?」
「まぁ、噂は常々、ね」
ココアを差しだすと、弟は両手でそれを受け取った。
「噂ほど主観的なものはないよ」
弟はとくに焦る様子もなかった。
本当に、わたしが聞いた噂が嘘であるかのように、ふぅふぅとココアに息を吹きかけている。
弟は猫舌だ。
わたしも一口紅茶を飲んだ。
「茉莉ちゃん」
ココアから顔を上げた弟は、あのブラックホールでわたしを見つめた。
「付き合っちゃおうか」
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