わたしと弟

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 聞いてみたことがある。 「雪ちゃんはどうしてわたしを名前で呼ぶの?」 一つ下の弟が中学生だったはずだから、わたしは高校のブレザーに袖をとおしたばかりだったと思う。 二人で食卓を囲んで、夕飯を楽しんでいた。 といっても仲良く談笑していたわけではなく、本当に目の前の料理だけに神経をそそいでいた。 その言葉の少なさは、知れた気心からくる。 だから、これがこの夕食はじめての会話だ。  弟は目の前の鯖をほぐしながら、 「茉莉ちゃんは、どうして俺を名前で呼ぶわけ?」 と、質問に質問を返した。 「『雪』を『雪ちゃん』以外にどう呼べっていうの」 「姉ちゃんと呼ばせるなら、弟ちゃんと呼ぶのが正解なんじゃない」 「……弟にちゃんをつけるの?」 「呼び捨てにするのはよくないよ。礼儀に反してる」 弟は、親しき仲にも礼儀を持つべきだよ、と付け加えた。 呼び捨てと礼儀をイコールにするのは、どこか違う気がした。 それなら、親しい友人同士が呼び捨て合うのは、どうなのか。  
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