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弟が唐突に口を開いたのは、わたしの鯖が背骨だけになったころだった。
ちなみに、弟の鯖はきっちりと尻尾だけがさけられている。
「茉莉乃ちゃん、って、呼び方はさ。なんか距離があるだろ」
わたしには、『乃』ひとつ分の距離なんて、よくわからなかった。
理解できるのは、やはり『乃』は、だれにとっても邪魔なようだということだけだ。
「親しみを優先したんだよ」
弟は箸を止めて、わたしと目を合わせた。
弟の目は光彩も黒いので、瞳の奥にブラックホールがあるように見える。
よく比喩される吸いこまれるような瞳というのは、きっとこのブラックホールのことのように思う。
わたしは瞬きをした。
「礼儀が大切なんじゃなかったっけ」
「親しい礼儀は親しみの中に持つものだよ」
弟は理屈っぽくて、難しい。
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