家の中の嵐

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 嵐がきた。 比喩ではない。 もめ事や非常事態があったわけではなく、事実、嵐がきた。  わたしと同じ歳の一軒家は、雷が鳴るたび、怯えてガヅヅンと妙な音をだしている。 雨はひどく、外壁をはがしてしまうのでは、と本気で思った。 このぶんだと、庭の父特製テラスも心配だ。  わたしは傘をたたむと、「雪ちゃん」と、ちょうど玄関の前にある階段に呼びかけた。 10分先のバス停から歩いただけで、紺色のジャケットが黒くなっている。 弟は階上からひょっこりと顔を出した。 階段のすぐ隣が、弟の部屋なのだ。 弟はなにも言わずともだいたいの要求はわかったらしく、右手を上げて私を静止させた。 リズミカルに降りてくると、タオルを取ってきてくれる。 「ずいぶん降ってるみたいだね」 まるで、雨に気づいてなかったような口振りだった。 「本当はタクシー使いたかったのよ」 「お嬢みたいなこと言うなぁ」 「お嬢?」  
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