看守さん

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もう見飽きた暗くて狭くて静かな部屋。 「看守さん。」 今日も話しかけてみる。 「…うるさい。」 ああ、今日は看守さんの声が聞けた。 独房という、暗い孤独の世界で他者の声が聞けるのは幸福以外の何物でもない。 「看守さん。今お外は明るいの?」 「…。」 「看守さん。看守さんのお名前はなんていうの?」 “看守さん”への興味が尽きない。 よく通る静かな低い声。 たまに独房の前を通る時に見える、綺麗な赤みの強い茶色の短髪。 瞳は綺麗な緑色なんだ。 「あのね、看守さん。」 「どれだけ吠えても無駄だ。」 ああ、看守さんは僕がここから出ようとか考えてると思ってるんだ…。 違うよ… 「…違うんだ。」 そう…違うんだよ… 「出なくていいから、看守さんが入ってきて。」 看守さんに触りたいんだ。 近くに来て欲しいんだ。 「ねぇ、看守さん。僕、看守さんが好きなんだ。」 看守さんは檻を開けて入ってきてくれた。 そして、僕の腕を優しく撫でて、悲しい声で囁いた。 「…俺がお前を見つけたりしなきゃ、山で暮らせたのにな…。すまん…。」 あのね、看守さん。 僕は看守さんのそんなところが大好き。 「僕ね、看守さんに会えて幸せなんだよ。」 「…すまん…すまんっ…!!」 僕にとっては小さな小さな看守さん。 ずっと謝ってくれたけど… ごめんなさい ちょっと触りたかっただけなのに…。 僕が看守さんに触ると、看守さんは簡単に檻の外へ吹っ飛んでしまった。 「お前が怒るのも当然だよな…。すまん…。」 それ以来、看守さんは現れなくなってしまった。 ごめんなさい、看守さん。 ‐おわり‐ あとがき→
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