第十一章:屈折

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――そして食事も終わり、いよいよ出発の時。 彼女から地図を受け取ったディエバさんによれば、大体二時間もすれば、少なくとも俺たちの足なら辿り着くらしい。 玄関で靴をはきかえ、扉を開ける。 見送りに来てくれた家屋の主が、俺とディエバさんに頭を下げて言った。 「どうかお気をつけて。よろしくお願いします」 深く深く頭を下げたまま、彼女は動かない。 背中に朝の日差しが強く差し込む。 光に照らされながら、俺は笑顔で返した。 「はい。ご希望に沿った働きをしてみせます」 会話は、それで終わり。 ディエバさんに「行くぞ」と促され、俺たちはその家をあとにした。 「仲間の一人がやられたことは既にわかっているはずだ。本拠地を変更する前に、叩くぞ」 仲間がやられた、故にこのあたりは危険だ。 その流れで本拠地を変える可能性は十分考えられる。 ディエバさんの言葉に頷きながら、足早に移動を続ける。 町を離れ、段々と周囲から人気が消えていく。 打ち捨てられた古い家屋、荒れ果てた畑、そういうものが目立ち始めたのは移動を始めて大体一時間もしないころか。 「地図だと、あの山の上のようだ」 ディエバさんが指差したのは、緑でおおわれたかなり標高の高そうな山。 あたりには他にも山があるが、それは中でも一際高い。 「では、いくぞアーク。登山開始だ」 「オス」 足に魔力をぐっと込める。 ディエバさんと顔を見合わせ、頷くと、互いにダッと一気に走り出した。 ノロノロ山を登れば体力が削られる。 目の前の邪魔な木や石は薙ぎ払い、時には砕き、最短ルート、即ち、一切曲がることのない直線で目的地を目指した。 そして、『それは』漸く視界に入る。 「立派なものだな」 「ええ」 「捨てられた古城か。昔はこの国にとんでもない金持ちか、王様でもいたのか?何にせよ、隠れ家としても、住み処としても最高ではないか」 どこまでも広く、どこまでも高い。 苔や蔓が壁にへばりついたその城は、堂々とこの山の中にそびえ立っていた。
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