第十一章:屈折

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――このセカイに来てから、初めての朝を迎えた。 起き上がり、俺は敷かれた布団を丁寧にたたみながら気づく。 昨日に比べ、身体の痛みがかなり和らいでいる。 これなら7、いや8割近く力を出せるかもしれない。 少なくとも、今日の決戦において、大きな支障はないだろう。 そう。今日は昨日ディエバさんが宣言した通り、敵の本拠地に攻めこむのだ。 激戦が予想される。彼女の足を引っ張るわけにはいかない。 「おはようございます」 俺が布団を片付け終わった丁度そのタイミングで、この家の主が部屋へやってきた。 朝食を用意してくれたらしい、実にありがたい。 彼女に案内されリビングへ。 丸いテーブルの上には三人分の食事が。 既にディエバさんはそこに座っていて、俺を待っていてくれたようだ。 白米に焼き魚、目玉焼き、キュウリのざく切りにマヨネーズをかけたもの。 バランスのよい朝食。お腹もすいていたし、本当に助かる。 いただきます、と挨拶をして俺とディエバさんはそれを食べ始めた。 「……ん、ぬ」 「?」 食べはじめて数分、何やらディエバさんの表情が曇る。 焼き魚を箸で突っつきながら、渋い顔をしていた。 「何してるんすか?」 「……骨が、うまくとれん」 ……随分と間抜けなことをいっているが、どうやら彼女はおおマジの大真面目らしく、ふんっふんっと唸りながらも必死で魚と格闘する。 「不器用なんですね」 「違う」 即答で否定された。 いいながらも、彼女が突っつく魚は見るも無惨にボロボロになっていく。 完全に不器用である。というか不器用でしかない。 「魚の骨は時に命をも奪う。ゆえに慎重にとらねばならんのだ」 言って、彼女の箸が魚の身体をぐしゃっと真っ二つにする。 慎重どころか大胆である。 もう骨とか関係ない。ただ身をかき回しているだけだ。 「魚の骨くらい……、ほら」 俺は箸と左手をちょちょいと使って、サッと魚の骨の大半を取り除いて見せた。 「……」 「ほら、簡単でしょう?」 「魔法は反則だぞ、アーク」 「どんだけ家庭的な魔法すか、それ」 仕方ないので、俺はディエバさんの魚の骨もとってやることにした。 目を丸くする彼女が何気に可愛くて。 少しばかり、俺は癒されてしまったりしていた。
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