プロローグ:安息

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とあるセカイの巨大山脈、その山奥。 そこには絶対に入ることの出来ない『巨大な空間』が存在する。 S・A・D本部施設。 どんな建物よりも高く、どんなテーマパークよりも広い敷地を持つそれは、その空間内にひっそりと、けれど堂々と存在していた。 施設内のある一室。 学校の体育館ほどの広さを持つ部屋。 特殊な木材で出来た柔らかめの床。特にそれ以外、何も置かれていないドーム状のその部屋は、基本的に自由空間である。 つまり、何に使ってもよい。 だから一ノ瀬 玲は二年前からこの場所を使用していた。 誰にも邪魔されないし、彼の気持ちを誘惑するようなものもなかったからだ。 「疲れたか?」 「う……うん」 「止めるか?」 「ううん、頑張る」 玲の言葉にも心を折らず、ふらついていた足に再度力を込め、木刀を構え直した少年の名はアーク。 年齢はまだ8歳。 一ノ瀬 玲の実の息子だ。 「……またママに何か言われたのか?」 「ぎくっ」 「やっぱりか」 「う、ううん、言われてないよ。『じしゅてき』に『くんれん』に励むんだよ」 「わざわざ自分の口で『ぎくっ』とか言っときながら誤魔化すとは、ふてぶてしい奴だな」 呆れ顔で玲はやれやれと肩をすくめる。 現在まで、一ノ瀬 玲はこの部屋で、アークの戦闘訓練のコーチをしていた。 しかし、だ。彼自身は別に息子を強くすることに興味はないし、必要もないと思っている。 アーク自身も、辛い訓練はすすんでやりたいものじゃないだろう。 ではどうしてこうなったかと言えば、それはミリア・アウストラ、アークの母が原因である。 自分の息子にもS・A・Dで働かせる気満々の彼女は、二年前から玲にアークの戦闘訓練のコーチをお願いした。否、命令した。 因みに、何故息子をS・A・Dにいれたいかと言えば、自分と玲の権力で息子を楽にさせてやれるからである。 親バカである。仕事する年齢になっても世話する気満々である。
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