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空を、見ていた。
いつからだろうか。ここまで強く空に恋い焦がれるようになったのは。
いつだったろうか。目指し、そして諦めたのは。
果てなく続く蒼天を仰ぎ、ふとそんなことを考えた。
答えは、どこからも返ってこなかった。
覚えて、いない。いや、思い出したくないといったほうが正しいだろうか。それは俺にとって負の記憶でしかない。
俺は……諦めたんだ。
それでもなお、俺の空への憧憬が薄れることはなかった。気が付けばいつも空を見上げている自分がいる。
空が好きだ。うらやましいと心の底から思う。おおらかで、穢れがなくて、どこまでも雄大。なにより――天に近い。
空はきっと、すべてを見てる。
「……なにを言ってるんだかな、俺は」
言いながら、頭上に手を伸ばす。掴んだ拳を開いてみても、そこにはなにも入っていなかった。
当たり前だ。その場所は、俺なんかが手を伸ばすには遠すぎる。届くわけが、なかった。
「アホらし……」
自分の行動がひどく滑稽に思えた。
気を取り直し、俺の特等席へと向かう。屋上入り口の脇に備え付けられた梯子を登り、その上へ。この学校で一番高い場所にたどり着く。
そこで仰向けになり、また空を眺める。春の陽気が心地いい。
こうしてこの場所からぼんやり空を見るのが俺の日課だった。
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