第一話

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   そうしたくだらないやり取りをしているうちにチャイムがなった。  予鈴。あと五分で始業。  始業……。 「あれ、どうしたのアオ? 急に立ち上がって」 「俺は行く」 「……一応続けて」 「もうこの窮屈な箱庭に押し込められる生活にはうんざりなんだ。俺は行く。あの無限の大空の下へ。遥かなる蒼天の頂きへ」 「……その心は?」 「ぶっちゃけ春眠だなんだと話をしていたら眠くなって仕方がない。授業なんかかったるくて受けてられるか。屋上行って寝てきます」 「またあ!?」  なぜか和真が戦(おのの)いていた。三歩分くらい距離が開いた気がする。おかしいな。こいつ座ってるのに。 「またって、そんな頻繁じゃないぞ」 「……最後に行ったのは?」 「今朝」 「頻繁だよ! 頻発してるよ! 完璧に依存してるじゃないか!」 「異存はない」 「誰が上手いこと言えと……」  額に手を当てて和真が呻く。  どうしてだろう。いまのはなかなかに小気味よい掛け合いだった気がするのだが、それでも和真には不満なんだろうか。どこが悪かったんだろう。  異存を出すタイミングか? あるいはその前の空のくだりが無駄に長すぎたか? むむ、こっちはありそうだ。  しかし空といえば、昨晩の満月は綺麗だったなあ……本当に月にウサギっているのかなあ……。
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