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朝は一段と冷えるこの街。
起き上がるのも辛いので、目が覚めても暫くはまだベッドの中だ。心地良い二度寝をしようとしたとき、棚の上にある携帯がそれを邪魔した。仕方なく、ボタンを押して耳に当てる。
「はい……」
『ハロー。元気ぃー?』
朝だと言うのに眠気など全く感じさせない女の声が聞こえた。
「……眠い」
思考が働かない。
早く用件を話してくれ。
『眠い? まあいいわ。カラス、ちゃんと仕事してんの? ジジィが怒ってたよ~』
心配している気配は無く、ただ鼻で笑ったような音が聞こえた。
「いいんだよ、別に……。何のようだ」
ああそうそう、と聞こえたあと、女は告げた。
『近々私もそっちに行かされるから。んじゃ、またかける』
それだけ言って、端末越しの会話が強制終了された。まぁ、あいつが来るも来ないも俺には関係ない。うん、関係ない。
「………」
もう一度、と思い目を閉じたがなかなか寝付けない。携帯で時間を確認する。
「まだ、六時……」
なんとなく、俺はベッドから起き上がり、シャワー室へ向かった。
■
シャワー室から出た後、いそいそと外に出る準備を始める。
全身を黒の服で身を包み、髪は整髪料とクシを使い後ろに持っていく。最後に、髭の剃り残しを確認しながら、ドアの近くまで歩く。
何か忘れてないか…。
携帯、オーケー。
金、オーケー。
服、オーケー。
俺、オーケー。
「今日も寒いな」
俺は膝まである黒いコートを羽織った。胸ポケットからサングラスを取り出しそれをかけたとき、ついに全身が黒に染まった。ふと、俺の知り合いを思い出す。あいつ、俺を見るなり驚いてなぁ…。
『烏みたいだ』って。
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