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「何だ、何も頼んでないぞ?」
疑問符が浮かんでベッドから立ち上がったとき、二人の会話が聞こえた。
「お腹空いたねハトちゃん」
「ふふ……抜かりはないです。ミィさんが兄さんとの会話をしている最中、ルームサービスを頼んどきましたから。当然兄さん持ちで」
不敵に笑うメイド。
「うおー!」
と拍手するメイド。
何がうおーだ。
忌々しい。嗚呼忌々しい。
◇
桜が暴風で暴れ舞っているかのようなピンク色オープニングが、スピーカーから部屋に響いている。
開始から十分後、フハハと見事なまでの悪者が登場した。
ブラウン管の中を飛び交う少女達はどうやら魔女っ子という戦闘民族らしい。街のビルというビルをピンボールのように跳躍していた。
手には魔法の杖に似た剣を握りしめている。
「私も使いたいなー、魔法……焼き尽くせ! 慈悲なる業火!」
ぬおー、と身振り手振りでアニメの必殺技をする痛い銀髪メイド。
何を今更、魔法なら充分使ってるだろうが、まあ魔法もどきだけど。
「なかなかの迫力ですね」
真摯な顔でアニメに没頭する黒髪メイド。ルームサービスで取ったポテトを口に運びながらも、視線をテレビから離さなかった。
俺も二人のメイドから目を離して少女達の戦闘を観戦する。
少女達の状況はあまり良いとは言えず、苦い顔をして敵を睨んでいた。
「くるよくるよ!」
ミィの声が大きくなる。それに煽られたのか、アニメのバックミュージックは速度を増し、少女達は宙を舞いながら呪詛を唱え、巨大なエネルギー砲を剣から放つ。
ビルと肩を並べる高さの悪者は、手で受け止めたのだが力に耐えきれずにチリとなって消えた。
銀髪メイドは悦の顔で少女達の最後を見送る。
「思ったんだけどさ」
「んー何カナー?」
メイドはテレビの上に置いた銀棒の位置を揺らして応える。
「さっきの主人公達だけどな、最初から必殺技かましてたらよくなかったか?」
「えー、それだとすぐに終わっちゃってつまんないじゃん」
確かにそうだが、敵との戦闘は速く終わらした方が頭の良いやり方だと思うわけで──。
「別にいいじゃないですか兄さん、アニメなんですから」
それもそうかな。所詮アニメだし。
そこで俺は朝の事を思い出したわけだ。
「そう言えばさ、お前ら何で銀行にいたんだ?」
「ああ、あれねぇ。あれハトちゃんが」
「ミ、ミィさん! ちょっと──」
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