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「やあ、初めまして。早いね、夕方に来ると思っていたのに」
東洋人なのか、髪は黒い。
「………」
会釈をする。男は嫌らしく口元を吊り上げたが、すぐに素の顔に戻った。
「失敗してるんだって? いつもいつも」
無機質な目で私を見下ろしてくる。
「あ、ああ。貴方が売っている欠片っていうは、何でもできるんだろう?」
クク、と笑いながら男は口を開く。
「できるさ。何でも」
「か、買うよ! いくらなんだ!?」
すがりつく思いで男に叫ぶ。男の言う欠片さえあれば、私はもう失敗する事はないだろう。
「金ねえ……。強いて言うなら指一本分の悲鳴かな」
「え……?」
後ろに控えた男の手が私に向かって伸びる。
「や、やめ──」
右手を掴まれる。男は親指を私の中指の付け根に添わせ、クイッと軽く押した。
「ぎ、あああああああああ!!」
骨の形が壊される音。
神経が千切れる音。
中指はもはや私とは違う部分となり、有り得ない方向に曲がっている。
「く、あははははははは!!」
男は私の苦痛を笑っている。耳障りだ。
「いい、いいよ。交渉成立だ」
男は私に向かって小瓶を投げた。汚い弧を描いて、私の目の前に小瓶が落ちる。
「こ……れが」
小瓶には硝子を砕いたような欠片が入っていた。
「そう、欠片。それを体に埋め込めば、お前は失敗なんかしなくなる」
「本当……だな」
悲鳴を上げる中指の痛みを堪えながら、男に問う。
「ああ本当さ。なんならクーリングオフをつけてもいい。期限はお前が死ぬ時まで」
「……く」
手のひらに収まる小瓶を握りしめる。部屋の男二人から目を離さず、ゆっくりと後ろの扉を開ける。
「それじゃあまた」
男の笑い声が頭から離れず、私は洋館を後にした。
◆
いいのか、蚕。
「なにが?」
見る限り、あの男は欠片に拒絶される。もしくは体のほうから欠片を拒む。
「いいじゃないか。欲しいって言ってるんだからくれなきゃ。あれって神の憤怒の一欠片だから中毒性は高いはずだよ」
知っていたのか。
全く、お前の考えは理解できない。あんなモノ、本当は人がもつ代物ではないのだ。あれは人の手におえん。
「まあ僕は人の叫ぶ姿さえ見れればそれでいいけど」
狂人が。その行い、やがて我が身に降り懸かるぞ。
「だから君を買ったんじゃないか。向かう火の粉は君という道具で防げばいい」
ふん、まあそれなりに努力はする。
◆
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