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「あなた、どうしたのその手」
妻は帰ってきて早々、私の右手に巻かれた包帯を珍しそうに見た。
「折れただけだ」
「大丈夫?」
つまらない目をし、子供の手を引いてキッチンに向かって行く。妻は心配なんてしていないのだ。ただ、偽りに心配し、偽りに私を愛している。
否は私にある。私が仕事で失敗し、人間関係でも失敗し、金銭的にも失敗しているのだ。愛想を尽かされて当然だ。
私は自分の書斎に戻り、あの小瓶を手に取る。窓から射す月明かりのせいか、中にある欠片は淡く光っていた。
「……本当に」
本当にこんな欠片で私が変わるのか?
私は失敗する。いつもいつも、最後の最後、一番重要なところでへまをする。それでも頑張ってきた。自分はまだ頑張れると、信じて今まで生きてきた。
馬鹿にされ、蔑まれ、罵られ、蹴落とされ、否定され、信用されず、そろそろ家族にも捨てられそうだ。
神は私を造る式を間違えたんだ。そうじゃない限り、私はここまで追い詰められない。
憎い。不完全な自分が憎い。
憎い。見下す周りが憎い。
私は小瓶の蓋を外し、欠片を右手に乗せる。
「埋め込め、と言っていたな」
左手で摘み、自分の右腕に欠片を突き立てた。
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