239人が本棚に入れています
本棚に追加
若くないくせに若く見せようとしているところが健気だな…。
何故、先生に、さすが阿部君、と言われたかというと、俺は国語が得意だからだ(読書が好きだし)。
「じゃあこの続きを……鈴木真美さん。はい、どうぞ」
俺はピクッと反応して、彼女の声に聞き入る。
「自分の田舎の家では、十人くらいの家族全部、めいめいのお膳を二列に向かい合わせに並べて、―――」
彼女が教科書にのっていた、人間失格を読み終えても俺は、まだボンヤリとしていた。
「太宰治は昭和13年に―」
先生が太宰について話し始めたと同時に、隣の席の晋哉が俺の肩をトントンと叩いた。
「何だよ?」
俺は小声で聞く。
いつの間にか話しは、先生の恋愛談になっており、皆は授業よりも興味津々に聞いていた。
俺はあんなおばはんの恋愛談なんて聞く気さらさらないけど。
「シャー芯くんね?」
この状況でシャー芯を要求してくるのか?
「一本でコーヒー牛乳おごりな」
「じゃあいらねぇわ」
「冗談だっつうの」
俺たちはひそひそと話して、先生の恋愛談が終わるのを待った。
「でね、私、その彼氏とは7年付き合ってたんだけど、ある日ね、マレーシアに行くって言われてぇ…」
最初のコメントを投稿しよう!