フィーリング

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店内はガラガラ。 最新の音楽がこのガラガラな店内に響き渡っている。 お客は3名いた。 そのうち二人はカップルで、男性は仕事帰りなのだろう。スーツを着ている。30前半といったところだ。 彼女のほうはみた感じ高校生じゃないだろうか? そのぐらい若い。 それから一人の若い男性… さっきからチラチラとこちちを見ている。 もしかして万引きしようとしてないよな!? 勘弁してくれよ。 この店の店員である武は、男を気に掛けながら、レジであれこれ整理していた。 CDを購入するお客は減っている。購入するよりレンタルのほうが安上がりだからだ。ここはレンタルはやっておらず、それほど流行ってはいない。 殆どがフラフラと立ち寄るお客しかいないのだ。 今日は遅番で23時ラストまでの勤務。 商品を手にしていないエプロンを身につけたお客が、レジに立っている武に向かって早足で駆け寄ってきた。 そして突然… 『双葉ね雨止んでたこと悔やんでたよ』 『本当かぁ?』 ちょっと疑った感じで返した。 このCDショップは大型デパートの中にあり、ここに来ればすべての用事が済むのである。 実利もこのデパート内のクリーニング店に勤務している。 CDショップから徒歩3秒のお隣さんなのだ。 たまたま今日は互いのシフトが合い会話できた。 『本当だってば!』 『彼氏は?』 『いません! ではお先に失礼しまーす』 必要事項を告げた実利は、ニコッと武に微笑み、足早にレジ前を離れようとした。 そのとき。 実利の後ろにいた男が声をかけた。 さっきまで武が目をつけていた男だ。 『先輩?』 『あっれ~幹(ミキ)くんじゃない!?久しぶり。元気にしてた?』 『はい。いやーびっくりだな。偶然会うなんて』 実利とその幹という男は、どうやら先輩、後輩の仲らしい。 同じ高校だったのだ。 髪は黒の短髪。なかなか爽やかな青年だと思った。 武よりも背が高い。 軽く会話を済ませると実利は帰っていった。 武は、彼が持ってきた1枚のCDを会計していた。 武は万引きではないかと疑ったことを恥じた。 じゃあ何で、あんなにじろじろ見てたんだ?
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