フィーリング

8/9
前へ
/29ページ
次へ
幹という男に商品を渡すとき武は、ギョッとした。 一瞬目が合った。ではなく、その青年はさっきから武を見ていた。 何秒前…何分前?からみていた視線だった。 確実に武をみていた。 観察するような目で。 ……なんだよ。危ない奴か? 男は普通に店をでていった。 商品の受け渡しで気づいたが、右手には包帯が巻かれていた。 カップルはいつの間にか店内にはいなかった。 仕事を終えてデパートをでた。電車で15分、駅から徒歩10分で自宅へ到着する。 電車に揺られているとき、武のケータイが鳴った。 実利からである。 〈幹くん高校時代ね、双葉のこと好きだったのよ。 相談されたしね。 力になれなかったけど… だって、すでに彼がいたわけだしさ。 私の勘では…幹くん今もまだ双葉のこと好きだと思う。 もたもたしてると取られるぞ!?〉 パタン… ケータイを閉じた。 ………。 今日も行ってみるか。 デパートをでる前にデパ地下へ寄り、少しのお惣菜を買った。だから、別に夜食がどうこうではないが… 通っているコンビニは3つある。一ヶ所に毎回行くのにはちょっと勇気がいるからだ。 もしかしたら、という期待がどこかにあった。 何も買う予定はないがそこに向かった。 『また会ったね』 彼女の横に立ち、武は言った。 ちょうど、お弁当のコーナーを覗いているところだった。こっちには全然気付いていなかった。 …本当にいた。 勝手に顔がほころぶ。 街灯は適度な間隔をあけて付いていて、夜道は真っ暗ではない。 それにこの辺りは、同じようなアパートが非常に多く立ち並んでいる。 迷路のようだ。 彼女は、別に料理をしないからコンビニを利用しているわけではない。 と、ちょっと熱のこもった口調で言ってきた。 いや、してないでしょ? と思ったが口にはださない。そんな失礼なことは言ってはいけない。 彼女が例え料理をしない女性でも全然いい。 許せる。 『彼氏いないの?』 料理するしないの話をさえぎり、頭中でモヤモヤしていたことがスバッと口からでていた。 急に話を断たれて彼女の顔がキョトンとなった。 『いないけど?』
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加