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――天空都市アクイナス
地上界に住む者なら誰しもが一度は行ってみたいと口にする、憧れの聖域。
しかし、この聖域で生まれたかったと言う者は少ない。
それは、この天空都市アクイナスにはほとんど仕事と言った仕事が無く、人口の半分位の人間は学校で【造艇学】を学び、卒業した後は専門の造艇企業に就職する。
だが、造艇業には向かない人間も出てくる。
卒業までに必要な単位数を修得出来なかったり、または卒業しても企業の適正試験に不合格になったりすると、少なくとも1年間の収入が無くなってしまう。
そのため、卒業時に上手く就職先が決まらなかった若者達は、飛空艇で地上界へ降り、就職先を探す。
そんな中、就職に際し1つだけ特別な方法で決まる職がある。
それが、【フライヤー】だ。
フライヤーとは、飛空艇の操縦士のことであり、アクイナスに住む人々の憧れの職である。
無論、それだけにフライヤーの資格を得るのは非常に難しい。
フライヤーになるための方法は2通りある。
1つは、操縦士養成専門学校在学中に校長推薦を得ること。
そしてもう1つは、操縦士養成専門学校に年1回訪れる現役フライヤーの視察の際に行われる実技訓練において優秀な成績を修め、現役フライヤーからの推薦を得ること。
今エルトには、後者の機会が訪れているのである。
☆★☆★☆
「アローナ様、こっち向いてください!」
「アローナ様、握手をお願いします!」
現役フライヤーのアローナ=ル=ホビナーツが操縦士養成専門学校の正門に到着すると、物凄い人の列が出来上がっていた。
先程までエルトの机の傍でアローナの訪問について語っていたオルバは、既に正門の最前列に並んでいた。
アリーナもオルバに流されるままにお出迎えに行っていた。
そして、このチャンスを活かすんだ、と意気込んでいた肝心のエルトはと言うと、猛烈な勢いで今までの学習内容を復習していた。
現役フライヤーの推薦を得るためには、飛空艇操縦の実技訓練において優秀な成績を修めなければならないのだから、本当に操縦士になりたいのなら今はアローナのお出迎えではなく、実技訓練で必要とされる知識を復習しておいた方が得策だろう。
エルトは必死で教科書を熟読していた。
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