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それから1時間後、試験の合図を校内放送で聞き、クラス毎に次々と訓練所に呼ばれていった。
「はぅぅ……。緊張するよ~」
アリーナは訓練所に入った瞬間からかなり大袈裟に震えている。
そんなアリーナを一瞥し、エルトは目を瞑り精神集中に努めた。
「……それでは、只今から実技訓練を行う。」
「待ってましたぁ!!」
訓練の監督を務める教師が訓練開始の宣言をすると、最前列でオルバが待ち焦がれていたかのように大声を張り上げた。
とはいえ、オルバの場合は【研修生】になりたいという願望よりも、アローナの前で良いところを見せて、少しでも近付きたいといった感覚なのだろうが。
エルトにとっては将来を占う大事な機会であって、それを友人のために引き下がるような真似どころか、失敗は絶対に許されない。
エルトは胸の辺りで小さく、しかしこれ以上無いという程強く拳を握った。
「……それでは次、エルト=ハインリッヒ。」
「はいっ!」
はっきりと返事を返し、訓練用の飛空艇に乗り込む。
コクピットに入ると、モニターのスイッチが自動で入り、試験の注意事項が映像で流れた。
エルトはモニター映像の指示通りに環境をチェックし、訓練開始の瞬間を待った。
「……それでは、エルト=ハインリッヒの実技訓練を開始します。」
そう流れると、モニターのスイッチが切られ、飛空艇の中が真っ暗になった。
「……よし、行ける!」
エルトが力強く呟くと、コクピットの中に外からの光が差し込んだ。
『‡Mission‡ アクイナスを一周し、帰還せよ』
コクピット内に指令内容が流れ、エルトは一呼吸置いてから飛空艇を発進させた。
☆★☆★☆
「……今のところ、フライヤーに推薦出来そうな子は居ないみたいね」
操縦士養成専門学校の屋上で、実技訓練の様子を眺めるアローナは呟いた。
アローナは先程から百人以上もの飛行を見てきたが、高度の上げ下げの調節を上手く行えない者が多く、中には飛空艇を発進させることすらままならない者もいた。
「今年の推薦はお預けかしらね……?」
溜め息混じりにそう漏らし、新たに始まる実技訓練の様子を窺う。
「……あら、なかなか順調な滑り出しじゃない」
アローナの声は心なしか少し弾んでいた。
元々フライヤーという職は狭き門であるが故に、フライヤーの仲間が増えることは嬉しいことなのだ。
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