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だからこそ、順調な滑り出し――フライヤーにとって通常の飛行を見せてもらえると、期待が持てるのだ。
「楽しみな展開に……。あれ……?」
真剣に実技訓練の様子を窺うアローナの髪を渦巻くような風が靡かせた。
アローナは直ぐに空を見上げる。
「マズいわね、これ。学生じゃそう簡単に対応出来ないわ」
アローナは急いで実技訓練の試験監督に無線で連絡を入れた。
「今すぐに試験中の飛空艇を帰還させてください!もうじきかなり荒れた乱気流がきます!」
☆★☆★☆
「よっしゃあ!これで後は着地さえミスらなきゃ完璧だな。」
離陸を見事に成功させ、飛空艇の高度も無事に軌道に乗せることができたエルトは、上機嫌だった。
フライヤーになるという将来の夢に大きく前進出来る。
エルトの心は希望に満ち溢れていた。
しかし。
飛空艇が突然揺れ始め、エルトの心に不安がよぎった。
その時、コクピット内に設置してあるスピーカーから、緊急連絡のサイレンが流れ、試験監督が冷静な声で指示を出してきた。
「実技訓練中のエルト=ハインリッヒ。訓練は中止だ。今すぐ引き返し帰還せよ。繰り返す。実技訓練中の……」 エルトは何が起こっているのか状況が飲み込めず、パニック状態に陥った。
そうなるのも無理はない。
この機会にかけると意気込んで必死に今まで快調に飛行を続けてきたのに、状況が把握出来ないまま訓練を中止して引き返せと言われているのだ。
エルトは、冷静になるためにも、無線で状況説明を求めた。
「試験官、今何が起こっているんですか!?」
「…………」
試験官からの応答は無い。
数分後には、スピーカーから発せられていた雑音も消え失せた。
「くそっ!!」
エルトは唇を噛んだ。
このまま独断で引き返さずに、命令無視で退学になり将来の夢が消えてしまうのはあまりにも情けない。
何より、今は自分の命すら助かるかどうか危うい状況。
エルトには引き返すほかに選択肢は無かった。
しかし、時既に遅く、飛空艇はあっという間に乱気流に飲み込まれていた。
「くっそぉぉぉ~!」
エルトは出来るだけ高度を下げ、乱気流の影響を小さくしようと努めたが、この乱気流の中ではさすがに上手くいかない。
ここまでかと思われたその時、エルトは教科書にあった気流の仕組みを思い出した。
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