夢ノ唄

序

「 此処で何もせずに野垂れ死ぬか、それとも…… 俺ん家に来るか 」

二つに一つだ、と言った瞬間に真剣さなど何処へやら

爽快に笑う叔父様世代の男がいた。

対する彼女は、頭は大丈夫？と、それが素直な心境。

そんな思いが眉を訝(ｲﾌﾞｶ)しげに寄せている事で現れていたのだが、男は豪快に笑い声を上げていた。

「 いやよ、うちにも同じ歳の頃合いの娘がいてな。」

他人事には思えんのさ、とそれは愉しそうにケラケラと

彼女からすれば、何を考えているのかさっぱり解らぬ男。怪しく思えるのも仕方がない。

「 ……小さい頃にさ、親に言われたんだよ。"知らない人"に着いて行くな、て 」

誰しもが小さい頃に親に言われる台詞を、彼女も言われていた。

口許に浮かべるのは意地悪そうな笑み。

まるで、男を試しているかの様にも伺えるのだが、相手たる人は何処吹く風。

「 それも、そーだな。俺は勝 義邦(ﾖｼｸﾆ) てぇんだ。お前さんは？ 」

「 …… 白石 響 」

互いに名前を言った所で、知らない人には変わりは無いのだけれど

「 ひびき、か…… 良い名だな。お前さんにぴったりじゃねーか。」

知り合ったばかりの人を何処をどう見て、そんな風に判断出来るのか

ニカッと音が出そうな程に、子供の様な笑みを浮かべて頭を撫でて来る。