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しかし、そんな物を所持しながら不自然過ぎる服装をしている不審者を見て、不審がっている通行人は誰一人としていない。
それ以前に、不審がるところか、気に止める者すらいない。
当然ながら、誰一人として振り向きさえしない。
むしろ、通行人の誰一人として、不審者に気付いていない有り様だ。
歩行者も、自転車を颯爽と走らせる学生やサラリーマンも、飼い主と一緒に散歩中の犬も、不審者に気が付かない。
いや、気が付かないのではなく、むしろ見えてすらいないのだろう。
まるで、そこには電柱と住宅の塀しか無いかのように。
それでも織田雄夜には見える。
何もかもはっきりと、確かに見える。
全身を覆い隠す不自然な黒衣も、正体不明の大きな何かも、全てが見える。
見えている。
しかし、周りの人間は気付きさえしない、この変な感覚。
まるで、自分一人だけが違う世界を見ているようだった。
そしてそれと同時に、織田雄夜の心の中には言い様のない感情が生まれていた。
不安とも恐怖とも似つかない、奇妙な感情。
織田雄夜の勘がそう思わせるのか、本人すらも分からない。
得体の知れない感情が織田雄夜を支配する。
織田雄夜の直感が心の警鐘が鳴らし、彼の脳に異常事態を伝える。
あれには関わるべきではない。
きっとあれに関わったら、とてつもない不幸が訪れる。
そんな予感が織田雄夜の頭を過った。
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