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そんな事を心の中でぶつくさつぶやいているうちに、何とか玄関にたどりついた。傘を畳んで水を落とす。アスファルトに広がる黒いシミ、それはまるで心に梅雨の陰鬱さが広がっていく様を写しているようだった。
☆
中に入り、下駄箱の方に目を向けると、丁度国木田が靴を履き替えている所だった。
「おはよう、キョン。」
よう。お前にしては遅い登校じゃないか。
「まぁね。今朝からこの雨でしょ?学校に行く準備も、歩く速さものろのろになっちゃってねー。教科書が濡れるのを庇うと自分が濡れちゃうし。本当に大変だよ」
さすがの優等生国木田もこの梅雨の影響を大きく受けているらしい。え?俺の教科書は大丈夫なのかって?もちろん濡らさないさ。なんせ置勉してるからな。おかげで鞄はペラペラだし、登下校も楽ってもんだ。…成績は下がる一方だがな。
…ったく。数年に一度はカラっと晴れて清々しい日が続く梅雨があってもいいのにな。
「バカだなぁキョン。そんなことになったらそこかしこで水不足になっちゃうじゃないか。」
…この優等生は夢というものは無いんだろうか。そりゃもちろん俺だってこの時期に降り続く雨が自然を潤していることも、はたまたダムにたまって暑い夏のための飲み水を供給してくれてる事も知ってる。しかしだな、そんな先の事のために「今は我慢しよう!」っていう考えを持つのは若い俺たちには難しいし、ましてや不機嫌になると世界を破壊しかねない奴がいるんだぜ?お前は気づいていないだろうがな。その度に俺や、ニヤケ顔の…こいつはどうでもいいか。がとばっちりを受ける羽目になるんだ。水不足と世界の破滅。どちらも厳しいが、やはり天秤にかけるまでもない事も明らかなんだよな。
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