セキセイインコ

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 どの部屋も、物が溢れていた。  キッチン、リビング、トイレに浴室と例外なく乱雑としていて、ガラクタが山盛りになっている。  特に寝室が酷く、カプセルホテルのような一人分の横穴以外の空間はすべて埋め尽くされていた。  僕が幼い頃に遊んだアヒルのぬいぐるみや古いパソコン、大学の製図実習のときに使ったT型定規やスキーの板や車のヘッドライト、レカロシートや服やおもちゃ等が無秩序に詰まっているのだった。そもそも、寝室と呼んでいいのかと疑問に思うときがある。  以前は妻と息子がいて、この家で三人一緒に暮らしていたが、今では僕が一人で住んでいる。いつ妻と息子がいなくなったのか、僕にはわからなかった。たぶんガラクタが多くて生活が出来なくなり、出ていったのだと思う。  つまり、僕は妻と息子に見捨てられたというわけだ。  玄関の呼び鈴が鳴り、反射的に時計を見た。午前十時。約束通りの時刻だ。リビングのガラクタの隙間から、雪崩を起こさないように慎重に足を忍ばせ廊下を歩き、玄関を開くと作業服を着た男が立っていた。
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