セキセイインコ

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 駐車場は百台程停められそうな広さで、近所にあるスーパーマーケットの駐車場に似ていた。入り口から一番手前に停め、温泉宿の玄関にまわり込んだ。  受付の若い女性に名前を告げると、鍵と館内案内の紙と食券を四枚渡してくれた。案内の紙を見ながらエレベーターに乗り、五階で降りてまっすぐ歩いて冷水機の前。それが僕が泊まる部屋だった。  窓は分厚そうなカーテンで完全に閉ざされ、中央にはもう布団が敷かれていた。右側に掛け軸とテレビとテーブルがあり、トイレが二ヶ所ある。一つは入り口傍の洋式便器でドアがあり、部屋と仕切られているが、もう一つは部屋の中の窓の下にあった。  タイル張りで直径が一メートルほど、人の背丈ほどの深さの穴の奥に和式便器があり、穴の周りにステンレス製の手摺が取り付けられている。  急須で湯飲みにお茶を入れて、啜りながら穴を覗きこむ。手摺に掴まりぶら下がりながら用をたすのは面倒だな、と思いながら湯飲みをテレビの上に置き、浴衣に着替えて部屋を出た。  館内案内の紙に書かれた大浴場は一階の一番奥にあった。更衣室で服を脱ぎ衣類をロッカーにしまい、大浴場のガラスの引戸を開いた。
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