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ボーっとしていた昭仁の目に止まる位、そのカップルは普通ではなかった。
二人とも、暗い顔をしている。
男は、スーツ姿だった。
右手にはカバンを持ち、左手には傘を持っている。
女も、男と同じ様にスーツ姿だ。
長い黒髪を後ろで一つに結び、黒縁の眼鏡を掛けている。
キャリアウーマン風の、少しキツい印象を持つ美人だ。が、正直に言うと、昭仁の好みとは、真逆のタイプだ。
昭仁の目を引いたのは、彼女の美しさもあったかもしれないが、それだけではない。
土砂降りの雨の中、男は持っている傘を女に差し出しもしないで、一人、傘の下に居る。
何て酷い男だ―と思うと同時に、もしかして、別れ話をしているのか? もしそうだとしたら、こうして観察を続けるのは、失礼かもしれない―とは思ったが、視線を外すことが出来なかった。
男が真剣な顔で何かを言うと、女はその場で俯き、一層暗い顔になった。
男は、俯いてしまった女をその場に残して、背を向けて歩き去った。
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