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女の細い肩が、微かに上下している。泣いているのだろうか?
ドラマの一場面を見ている様だと思い、目が離せなかった。
女は、暫くの間その場で俯いていたが、不意に顔を上げて、男が歩み去った方角を見る。
男の姿は、既に人混みに紛れて見えない。
だが、彼女には男の姿が見えているのか、一点を見つめて、満面の笑みを浮かべた。
男との別れを、今の短時間で吹っ切ったのか?
笑顔のまま背を向けると、男が歩み去ったのとは逆の方向へ歩き出した。
強い女性だな―と思った瞬間、彼女は何かに躓いたのか、見事に転び、道路に座り込んだまま動かなくなった。
道路に座り込む女に救いの手を差し伸べる者は居ない。
道行く人々は彼女に目もくれず、避けて歩く。まるで、ゴミか石ころの様な扱いだ。それでも、女は動かなかった。
余りに長い時間動かない女を見た昭仁は、女が心配になり、チェックを済ませて喫茶店を出た。
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