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自分が店を出る間に女がその場から居なくなっていれば、それはそれで良かった。
あの女性とは、縁が無かったのだと思うだろう。
だが女は、昭仁が店を出ても同じ場所に座り、昭仁が側に行っても、身動き一つしなかった。
「大丈夫ですか?」
声を掛けても、女は昭仁を見ようとしない。
昭仁は、自分が着ていたジャケットを女の肩に優しく掛ける。女はずぶ濡れだった。
女は一瞬、ビクッと体を震わせてから、肩に掛けられたジャケットを見て、それから背後に立つ昭仁を振り返る。
心配げな表情で自分を見下ろす昭仁を見て、笑みを浮かべる。
「有り難うございます」
女の声を聞いて安心した。
「立てますか?」
昭仁の問いに、女は首を横に振ってから、恥ずかしそうに昭仁を見上げた。
女の、日本人にしては薄い茶色の目には、この雨の中でも判る位の涙が浮かんでいる。
女の涙を見て狼狽えた。
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