641人が本棚に入れています
本棚に追加
そこが瓦礫となるその少し前……。
元々、そこは工場として使われていた場所だった。
だが、工場とその付近を占領したディノスという第一級犯罪者がまとめている犯罪グループがアジトとしていたのである。
その日は他のグループを二つ潰したことを理由に全員で大盛り上がりし、それぞれ酒を飲み合って馬鹿話をしていた。
鐘の音を遠くで聞きつつ、ばか笑いしていた手下の男は酒を注いでいる女の方を見た。
「なぁ、こんな噂を知ってるかぁ?」
「なぁに?」
「最近、十二時の鐘の音が鳴ると、化物が出るって噂だぜ?」
男がわざと怖い物を話すように声を震わせると、女が大笑いする。
「あはは! ばっかみたい! そんなの迷信でしょ!」
「だよなぁー!」
その笑いに男も釣られて笑う。
「でもさぁ、もしその化物がいたら、ディノスとどっちが強いんだろうねぇ」
女が声を潜めて言うと、男は少しだけ眉を潜めた。
「あぁん? そりゃお前……」
男が答えるよりも早く。
いきなり二人の間に斧の刃が振り下ろされた。
木製の机が真っ二つになり、騒いでいた周りの人達が一斉に静かになる。
「鐘の悪魔の話なら、俺も知ってるぞ?」
「ディ、ディノスさん……。驚かさねぇでくれよ」
男は冗談でなく本当に恐れた目で、右目が潰れた、男より頭一つ大きいディノスを見上げた。
「がっはは! 悪いな、手が先に出るのは俺の悪い癖だ。それで……」
「えっ……、ぐぅ!?」
女の細い首がディノスの手に掴まれ、そのまま女は引き寄せられる。
「誰が……、誰より強いんだって?」
「あっ、かっ……!」
太いディノスの手に掴まれた女の首が徐々に絞められていく。
「俺は、化物より弱いか?」
かすむ意識を保ちながら、女は首を横に小さく振る。
「俺はそいつより強いか?」
青ざめながらも首を縦に弱々しく振ると、ようやくディノスは女を解放した。せき込む女を、男がゆっくり下がらせた。
「お前らの最強のリーダーは誰だ!」
ディノスが斧を片手に聞くと、全員が口々にディノスの名前を叫ぶ。
「そうだ! お前らのリーダーであるこの俺、ディノ……」
叫び切ろうとした……、その時。
鉄製の扉が爆砕音と共にバラバラになって吹き飛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!