103人が本棚に入れています
本棚に追加
少年はフラフラしながら教壇へと近付き、カバンを放り投げ倒れ込んでしまう。
独特な色の髪が額にべったりと張り付き、頬は真っ赤に染まっていて、一瞬心臓がびくりと跳ねた。
だっていつもニコニコニコニコしてて、こんなに取り乱してるの初めて見るから。
悲鳴を上げていた黒板消しを解放し、一歩、少年に近付く。
『もう、だいたい仕事終わったよ』
「うそ‥‥」
『嘘じゃないから』
ニッコリと微笑んでやれば、アレンは申し訳なさそうにうなだれてしまって。
あー、せっかくこんなに走って来たんだもんな。でも遅刻するのが悪いし。
飛ばされたカバンをそっと拾い上げアレンの目の前に置く。多少呼吸の整って来たアレンはゆるゆると手を伸ばし、カバンに手をかけ何かを探し始める。
取り出された銀色の物体に、探していたのは携帯電話だということが確認出来た。
「…朝って、得意ですか?」
『いや、全く。』
「でも早いですよね」
『近いしね』
会話をしながらアレンは何やらカチカチカチカチ携帯をいじくり回している。そして、顔を上げて一言。
「次日直のときは、僕がやりますから!」
今日のお礼を、としどろもどろになりながら必死に言葉を紡ぐアレン。その姿に、思わず私は吹き出してしまった。
だって
『アレン、それ何回め?』
ローテーションで適当に組まれる日直。なのに私とアレンはいつも一緒。それ以外では全く交流を持たないから、その一回一回がとても新鮮だけれど。
『ねぇ、アレン』
何か仕組んでるの?
わざと苛める様に問うてやれば、素直に身体をビクリと震わせるもんだから、面白くって仕方なくて、笑いが止まらない。
早起きも悪くないな、と思える時まで、あと少し。
(ああ、朝から疲れた、笑い過ぎた。)
.
最初のコメントを投稿しよう!