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(言の葉の使い様)
『………っあ』
「………………よう」
『間が長い、無駄にスペースを使うな』
「あ゛?」
『すみません私は何も言っておりません』
「……ったく」
『…ごめん、ね』
ぼろぼろな格好で、とりあえず閉じてしまいそうな瞼を気合いで持ち上げ、はやくはやく着けと願っていれば。
ふと手に握っていた時計を見れば、もう時間、が。
(アクマに無線、壊されるなんて…予想外だったんだもん)
単独で任務を行っていた私の連絡手段が無くなり、多少は焦ったがすぐに帰れるだろと自負していて。
例え私にとって"だいじなこと"があっても、それは任務より優先していいことじゃ、なかったから。
『ごめん、ごめんなさい』
「……あー、うるせぇ」
『なっ…!』
地下水路を渡ってきた船から降りれば、そこにひとつの影があって。
思わず飛びついた私に多少よろめくも倒れはしないしっかりとした身体、
聞き慣れた憎まれ口、
さらりと前に流れて私の肩に触れる、長い黒髪。
(かお、みれない)
私の口から洩れるのは謝罪の言葉ばかりで、自分でも何がしたいのか、わからなくて。
ごめん、
いちばんに言いたかったのに。
「…おい」
『……はい』
くい、と顎を掴まれ上に持ち上げられる。
そうすれば、どんなに逃げようとも視線が交わってしまうわけで。
私を安心させる為なのか何なのかわからないけれど、突然唇に暖かな温もりを感じて。
ちゅ、と音を立てて離れたそれが、何を意味してたのかなんて考える余裕はないけれど。
(ああ、えっと)
『…おめでとうございました。』
「なんだ、それ」
『だって過去形…』
「まぁな」
薄く笑みを浮かべた彼の顔を見て、漸く私の緊張の糸がほぐれて。
(今日、いっぱいお祝いするからね)
たくさんの気持ちを込めて、
お返しのキスを贈った。
(神田神田、はい)(…なんだコレ)(蕎麦の実。)(………)
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